今回は、自社に送付された使用済み保護帽から材質毎にサンプリングを行い、使用状況下での性能劣化について調べました。
保護帽の経年劣化(その2)
試験試料及び試験方法
(1)回収保護帽
各材質(FRP、ABS、ポリカーボネート、ポリエチレン)
総数 828個
内訳:FRP300個、ABS237個、ポリカーボネート154個、ポリエチレン137個
(2)サンプリング方法
様々な材質、形状及び製造年月のものをランダムに抜き取りました。なお、社団法人日本ヘルメット工業会では、使用開始からの年数で交換の目安を定めていますが、使用開始日がわからないため、今回は製品に表示してある製造開始年月とみなすこととしました。
(3)試験方法
屋外暴露試験で顕著に劣化傾向が現れた、厚生労働省「保護帽の規格」に基づく衝撃吸収性能試験(前処理:-10℃で2時間)を行いました。
(4)合格判断基準
「保護帽の規格」に基づき、最大衝撃荷重が5kNを超えないとともに、保護帽の帽体及び内装に大きな破壊等が生じない事としました。
試験結果
(1)総合結果
試験総数828個の内、43個が合格基準を満たしませんでした。
(2)使用年別、材質毎の結果
FRPにおける不合格の原因は、内装の破損によるものが殆どでした。ABSにおいては、各年代にわたり帽体「割れ」等が多々発生しました。ポリカーボネートにおいても年代別にばらけた状態で「割れ」等が発生しました。ポリエチレンに関しては、一部の年代を除いて異常は見受けられませんでしたが、帽体内側の内装を取り付ける部分に、鋲折れが発生しました。
(3)個別結果(顕著な例を抜粋)
①製造年2004年2月(使用期間5年と推測)、材質:ABS
帽体表面に塗料が大量に付着していました。試験後は帽体が横方向に断裂しました。ABSは有機溶剤に弱いため、使用環境により物性低下が予想以上に大きく進む可能性があります。
②製造年2006年3月(使用期間3年と推測)、材質:ABS
帽体の変色が激しく、光沢が全く無い状態でした。試験を行った結果、帽体縦方向に亀裂が発生しました。
③製造年2003年11月(使用期間6年と推測)、材質:ABS
帽体のキズ等が激しく、本来の色が判らない状態でした。帽体に亀裂等は発生しませんでしたが、衝撃荷重値が5kNを超えました。
④製造年2006年2月(使用期間3年と推測)、材質:ポリカーボネート
後頭部に焦げ・熔解痕がありました。熱可塑性樹脂には好ましくない高熱環境で使用されていたと推測されます。帽体は既に変形しており、衝撃吸収性は全く無く、使用環境による影響が大きいと考えられます。
この様な作業環境には熱に強いFRP製品を推奨します。
⑤製造年1998年8月(使用期間10年と推測)、材質:ポリカーボネート
汚れ等が目立たないながらも亀裂が発生しました。使用環境は不明ですが、割れ方は屋外暴露試験での破壊と同じであり、分子量が低下していると思われます。
⑥製造年2004年6月(使用期間5年と推測)、材質:ポリカーボネート
汚れ及びキズが多数ありました。試験時に帽体が大きく破損しました。帽体表面の光沢が全く無くなっていることから、分子量低下と共に何らかの外的要因も加味しての結果と思われます。
内 装
⑦製造年1998年12月(使用期間10年と推測)
外観上汚れが大きく目立ちます。一般に帽体側の性能低下のみに注目が集まりますが、保護帽製品としての衝撃吸収機能は内装によるところも大きく、衝撃吸収性能試験を行った結果、破断しました。人体からの分泌物や環境中の埃、油の長期間付着による樹脂の劣化と考えられます。
まとめ
保護帽の帽体、内装において、外観上は特に大きな異常が見られなくても、ある程度劣化が進行すると破損に至る事が確認されました。特にABSでは、屋外暴露試験と同様、外観に異常が見られなくても大きな亀裂が入ったことは、特に注意すべきことと思います。また、内装も長年使い続けると本来の性能が維持出来ません。今回試験を行った保護帽は、収集されるまでにどのような経緯をたどったのか不明ですが、不合格になった保護帽も、直前まで実際に使用されていた訳であり、たまたま事故に遭遇しなかったのが幸いだったと言うことができます。このことからも保護帽をお使いいただく上で、経年劣化の危険性について認識して頂きたいと思います。
普段から次の事項に注意し、万が一の事故に備えて早め早めの交換を行って下さい。
①帽体が変形したら即座に交換。
②帽体に激しいキズが発生した場合は、即座に交換。
③外観の光沢が無くなったら経年劣化の前兆である事を考慮して交換が必要。
④内装あっての保護帽である。内装の使用期間が長くなっていたら交換する(一年毎の交換を推奨)。
⑤ポリカーボネートは有機溶剤に著しく弱いため、有機溶剤を使用する場合は適した材質(ポリエチレン、FRP)を選択する。ABSも推奨できない。
今回はおよそ1年6ヶ月にわたり回収された保護帽について試験を行いました。結果は828個中、43個が合格基準を満たしませんでした。言い換えると、828名中、43名もの作業員が安全性能を満たさない保護帽をかぶって作業をされていたということです。不合格率は5.2%にあたりますが、廃棄される直前まで実際に使用されていた可能性が高いことを考えると、本来は100%の試料が合格基準を満たす必要があるはずです。改めて保護帽の劣化について考えさせられる結果となりました。
今後も回収と試験を続けてデータを蓄積し、より現実に即した交換の目安の資料を提供したいと思います。そのためにも保護帽ユーザーからより一層の理解と協力が得られることを切に願います。