タニザワ

「エアライトS」開発物語

2021.09.01

谷沢製作所は2014 年7 月、従来の発泡スチロール製衝撃吸収ライナーに代えて、六角柱の衝撃吸収体をもつ内装体「エアライト」を新たに開発し、それを使ったヘルメットの販売を開始しました。
ヘルメットの常識を覆す「エアライト」は、安全性と装着時の快適性を向上させ、ヘルメットは大きく進化しました。
それから6 年、新たな衝撃吸収メカニズムを採用した内装体「エアライトS」の開発により、2020 年12 月にヘルメットはさらなる進化を遂げました。

「エアライト」搭載型式の拡大

2014 年に当社が開発した「エアライト」は、優れた衝撃吸収性能を持つ六角柱の衝撃吸収体「ブロックライナー」をハンモックに一体成形した内装体です。「エアライト」を用いたヘルメットは帽体内部に風が流れやすく、温度や湿度が上がりにくいのは勿論のこと、安全性においても発泡スチロール製ライナーが入った製品と同等以上の衝撃吸収性能を発揮します。
また、内部に発泡スチロール製のライナーが入っていないことにより、水道水でそのままジャブジャブ洗える上、すぐに乾くので、嫌な臭いが付きにくく衛生的という利点もあります。
2014 年7 月、「エアライト」付きのヘルメットは3 型式で販売を開始しましたが、御陰様でお客様から大好評をいただき、その後順次、製品数を増やして、現在では31 型式を市販しています。
これまで、市販の製品の内装を「エアライト」に置き換えることで型式を増やしてきましたが、置き換え完了に目途が立ったことから、2017 年頃、新デザインの製品を発売しようという話が持ち上がりました。

ポスト「エアライト」の開発

「エアライト」を搭載した新デザインのヘルメットを開発するにあたり、営業部門が開発部門に求めた要件の第一が「軽量化」でした。「エアライト」付きのヘルメットは、通気性も衝撃吸収性も従来の内装体を使用した同型の製品よりも良い結果が得られますが、質量だけは従来よりもわずかながら重くなっていたためです。
帽体の肉厚を薄くすると、衝撃吸収能力や耐貫通性能を著しくそぐため、大幅な軽量化は出来ません。可能性があるのは、製品質量のおよそ2/3から3/4 を占める帽体の小型化でした。
そこで、当社の人気ヘルメットST#161 型帽体の縁の部分を20㎜ほど切り落とし、その大きさを製品開発の目標としました。

従来のヘルメットの衝撃吸収メカニズム

ところで、従来のヘルメットでは頂部に衝撃を受けると、①第一段階で、帽体に比べて柔らかな材質のハンモックが伸び、②第二段階で、帽体が大きく歪んで(FRP 製の場合は帽体が割れて)エネルギーを吸収します。
そのため、ヘルメットを設計する時には、ハンモックの伸びと帽体の歪みの大きさのバランスを取ることになりますが、いずれにしても、ヘルメット頂部に十分な空間(頂部隙間といいます)が必要です。

開発の方向性を定める

さて、縁の部分を切り取ったST#161-JZV 型ヘルメットの頂部隙間は45㎜あります。小さくした帽体を製品化するにはどうしても、この頂部隙間を狭めなければなりませんが、ヘルメットの安全性能はそれと大きく関係するため、1 ミリ狭めるのも容易なことではありません。
それでもあえて、新たな解決策を見出だすことで、「頂部隙間を狭め、帽体の高さを抑えた、軽量でコンパクトなヘルメットを作る」という開発の方向性が定まり、動き始めました。

「つっかえ棒」のアイディア

頂部隙間を狭めるためには、ハンモックの伸びを抑えるとともに、帽体の歪みをできるだけ小さくしなければなりません。
ハンモックの伸びを抑えるために考えられたのが、ハンモックから帽体に向けて柱を設け、衝撃を受けた際にいわば「つっかえ棒」にするというアイディアです。
ところが、ハンモックの伸びを抑えると、それが衝撃を吸収しない分、帽体の歪みが大きくならざるを得ません。
開発陣はこの柱として、ハンモックにペットボトルのふたを貼り付け、百通りを優に超える試験を繰り返して、衝撃吸収の様子を探りました。
その結果、柱の数や位置、硬さによって帽体の歪みの大きさが変わることが分かってきました。
そうしたデータをもとに、ハンモックの一回目の試作金型を作りました。

想定外の試作結果

ハンモックの頂部近くに二本の六角柱を成形した試作品が出来上がり、早速、縁を切り取った帽体に取り付けて衝撃吸収試験を行いましたが、結果は芳しいものではありませんでした。低温での試験結果が安定せず、45㎜だった頂部隙間は、せいぜい7㎜しか狭まりませんでした。 試作金型を作り、製品化に一歩近づいていた開発でしたが、このままでは大きな改善は望めないと判断して、もう一度研究段階に戻り、更なる解決策を求めることになりました。

潰れながら支える

ところで、「つっかえ棒」とは表現しましたが、全く潰れない柱では衝撃が人の頭にそのまま伝わってしまいます。そのため、潰れながらもしっかりと帽体を支え、なおかつ帽体の歪みを最小に抑える柱の構造が求められました。
そこで考えついたのが、柱を七室のハニカム構造にすることでした。衝撃を受けた際に、ハニカム構造の一部が潰れても、全体としては剛性を保ち、しっかりと帽体を支えられるのではないかと考えたのです。
その後、このハニカム構造の柱の成形品を作り、帽体に取り付けて試験を行ったところ、思惑どおりの素晴らしい結果が得られました。
そこで、ハニカム構造の柱を新たに「サポートブロック」、そして、それを一体成形した新型内装体を「エアライトS」と命名しました。

「エアライトS」ではヘルメットの頂部に飛来物が衝突すると、①第一段階で、2 つの「サポートブロック」が帽体を支えます。その際、その一部が潰れながら、衝撃を若干吸収しますが、ハンモックはほとんど伸びません。②続いて、帽体が歪み、衝撃を大きく吸収します。帽体は2 つの「サポートブロック」の間で歪むことにより、その沈み込みが抑えられます。

123シリーズの発売

123シリーズの発売 ST#123-JZV(EPA)

2020 年12 月、PC 樹脂製のST#123-JZV を発売しました。懸案の頂部隙間は32㎜まで狭めることに成功、それにより、ヘルメットの高さは従来のST#161-JZV の152㎜から133㎜、質量は430g から365g と、たいへんコンパクトで軽量なヘルメットが誕生しました。
春にはシールド面付きと通気孔付きの製品が増えました。特にシールド面付きは質量430gと、シールド面が付いていない、同じPC 樹脂製のST#161-JZV と同じ重さになりました。
更に8 月にはABS 樹脂製を発売したのに続いて、秋には特殊FRP 製で300g を切る超軽量ヘルメットも発売する予定です。
今、ヘルメットが劇的進化を遂げようとしています。ぜひ手に取ってお確かめください。