今やクレーンの存在なしに建設工事を行うことは考えられませんが、クレーンの操作に当たって重宝されているのが無線機です。
現在では当たり前のように使われているクレーン用無線機ですが、普及したのはそれほど古いことではなく、せいぜい1980年代半ば以降のことでした。
今やクレーンの存在なしに建設工事を行うことは考えられませんが、クレーンの操作に当たって重宝されているのが無線機です。
現在では当たり前のように使われているクレーン用無線機ですが、普及したのはそれほど古いことではなく、せいぜい1980年代半ば以降のことでした。
㈱谷沢製作所は昭和7(1932)年の創業以来、ヘルメット、安全帯、換気用布風管と、いずれも他社に先駆けて生産を始め、取扱い商品の3本柱にしてきました。昭和50年代後半、4本目の柱にすべく、新たに取り組んだのが、クレーン作業の合図に用いる無線機でした。
クレーン作業には、吊り荷を着脱する玉掛者とクレーンの操作をするオペレータの間で、互いに十分な意思疎通が必要で、現在ではここに無線機を用います。当社が無線機の開発に着手した頃も、免許が不要な無線機は存在しましたが、クレーンでは一般的には用いられておらず、通常は決められた呼び笛の吹き方や手旗、腕の上げ下げなどで合図を送っておりました。
無線機の門外漢だった当社が製品開発に試行錯誤している頃、ある商社から微弱電波のトランシーバが持ち込まれました。早速、テスト販売してみようということになり、準備していたヘルメット取付型のヘッドセットを組み込んだ上で、ST#711の型式名と「エコーメイト」の愛称名を付け、昭和57(1982)年に発売しました。
この製品は、ボイスコントロール方式という声を出すと送信スイッチが入る仕組みの単信トランシーバでしたが、話し出しの言葉が途切れるという構造上の欠陥がありました。また、電池の都合で4時間しか連続して使えないこともあり、建設現場には全く売れませんでした。
しかしながら、実際の現場での試行をお願いする中で、クレーン用無線機がどうあるべきかについての貴重な意見を多数、集めることができました。
トランシーバST#711
そこですぐに当初の方針に立ち返り、あらためて自社開発による製品化を進めました。製品企画にあたっては、「免許の要らない常時接続の双方向通話型無線機」という、現在も続く製品の明確な基本方針を確立しました。
こうして昭和58(1983)年に完成したのが、微弱電波を用いた簡易無線局ST#722です。この製品は、カタログ上の通話可能距離が100~300mとST#711の2~3倍の性能を示し、連続使用可能時間も15時間と終日使えるようになりました。
微弱無線局 ST#722
玉掛け作業に無線機を使用することは、作業の安全性に寄与するだけでなく、作業効率を上げるものでありました。このため、全国の建設現場で安全保護具を販 売していた当社の販売部隊が、一斉にST#722のPRを開始したところ、各現場ではクレーン作業に貸与するためにゼネコンが先を争うようにST#722 を購入し、急速に普及が進みました。それとともに、他社製品との競争も発生しましたが、ST#722は簡単で使い易く、とてもよく売れました。
好事魔多し。順風満帆のエコーメイトでしたが、思わぬ障害が発生します。昭和61(1986)年6月、電波法施行規則が改正され、微弱電波を用いた無線機の電界強度の測定方法が100m法から3m法に変わり、従来の製品はいずれも不適合となりました。旧法無線機の使用猶予期間は10年ありましたが、販売の期限は3年間でしたので、すぐに代替品を作らなくてはならなくなりました。
ところが新規則に準拠しようとすると通話距離が短くて、製品にならないのです。このため、開発は難航しましたが、期限ぎりぎりの平成元(1989)年7月に漸く、新型微弱無線局ST#0722を発売することができました。
この製品は弱い電波を克服するために、電子回路に音声信号の圧伸技術を駆使するとともに、「リール式アンテナ」と呼ぶ新型アンテナを用いることになりました。これはヘルメットの表面に沿ってワイヤー状のアンテナを取り付ける当社独自のものでした。
新製品の電波到達距離は見通しのよい場所でもせいぜい70m程度と、従来製品の能力を大きく下回るものでしたが、何とか使用に耐える製品となりました。
折りしも、平成元年に免許不要の無線機として新たに「特定小電力無線局」が規定されたことで、競合メーカーの多くが3m法微弱無線局の開発を断念しました。このため、当社はクレーン用無線機を孤軍奮闘で供給していたにもかかわらず、お客様の製品に対する満足度は低くなり、従来とは一転して「飛ばない無線機メーカー」という、真に不本意なイメージが出来てしまいました。
当社では100m法の製品の時から、移動式クレーンに向けて販売しておりましたが、通信距離の不安からタワークレーンには勧めておりませんでした。ましてや、3m法製品では到底使い物にならないと思われました。
しかしながら、他社の撤退もあり、ユーザーより何とか製品を作って欲しいとの強い要望を受けました。
そこで、微弱無線局ではアンテナを自由に増設できることを利用し、ブームの先端やタワーの中間・下部、オペレータ室の外部などに多数設置して、電波の陰になる部分を小さくするとともに、延伸した同軸ケーブルの減衰を補う双方向アンプをアンテナに隣接して設置するなど、電波を最大限に生かす工夫をしました。また、「PACシステム」と呼ぶ基地局を運転室に置くことにより、最大12人の同時通話が可能になりました。
こうして、タワークレーン向けに自信を持って販売できる無線システムが完成し、お客様にも大変喜んでいただけました。また、このシステムをさらに応用することにより、建設業以外の特殊用途にも幅広く対応することができるようになりました。
微弱無線局から特定小電力無線局への移行は、おそらく郵政省の定めた一連の流れであったと思われますが、当社で情報を掴んだのはこの施行規則が公布される1年位前のことでした。その頃、当社では3m法微弱無線局の開発と応用に苦心しており、新たに特定小電力無線局に取り組む余裕は全くありませんでした。
他社からは間もなく、特定小電力無線局の無線機が発売されましたが、先行したのはレジャー用でした。当初、特定小電力無線局は出力10mWで、電波の到達距離は十分でしたが、通話3分毎に2秒の休止が義務付けられており、クレーン作業には不向きでした。
その後、平成3年に1mWの特定小電力無線局が規定されました。これは出力では10mWの無線局に劣りますが、3分毎の休止もなく、比較的クレーン向きでした。
間もなく、他社から1mWの特定小電力無線局が発売されると、当社の微弱無線局はますます「飛ばない無線機」として苦戦しましたが、翌4年の7月、待ちに待った特定小電力無線局ST#701の発売に漕ぎつけました。
1mW特定小電力無線局は電波の飛距離は十分で、微弱無線局の不満を吹き飛ばすものでしたが、3人以上の同時通話やアンテナの分岐が認められておらず、特殊用途向けのシステム構築が出来なくなってしまいました。
そこで、アンテナを分岐する代わりに無線機本体2台を大型クレーンのブームの先に取り付け、オペレータ室にはコントローラを置くことにより、適法に3人同時通話を可能にする、画期的な方法を考案しました。
このアイディアの製品は、平成5(1993)年8月にST#709として発売しましたが、その後、平成13(2001)年に、アンテナが分岐できるものの免許が必要だった「1mW以下の陸上移動局」が、免許が要らない特定小電力無線局に変更されるまで、長年に渡って使われました。
特定小電力無線局 ST#709
特定小電力無線局 ST#717BX/727M
現在、当社ではクレーン用無線機として、玉掛者とオペレータが1対1で用いるST#722Bセットと多人数同時通話が可能なST#717BX/727Mセットを販売しています。ともに、発売以来30年のエコーメイトのノウハウがぎっしりと詰まっています。
これまで建設業で成長してきたエコーメイトですが、その後、鉄道保線作業や造船業、港湾荷役作業などでも、活躍しています。さらに、劇場ホールやテレビ局 のインカムシステムとしても使われていますが、いずれも建設業で鍛えられたタフさが評価されています。これからもエコーメイトが様々な場面でお役に立てる よう、努力してまいります。