このように、日本の安全帯の歴史はハーネス型に始まりましたが、これは当時、安全保護具のお手本にしたアメリカで、ハーネス型安全帯が使われていたから に他なりません。当社ではこの商品を、鉱山、炭鉱、セメント工場、採石場などに紹介し、普及を図りましたが、容易ではなかったようです。
因みに同じカタログには、胴ベルトにD環のみが付いた商品をST#510「腰つな」という名で掲載し、『建築業、橋梁、鉄骨作業に於いて、この安全腰綱 が多大の効果を挙げております』と紹介しています。この商品は腰のD環に、別に用意されたロープの先端を結びつけて使います。現在使われているような、ラ ンヤード付きの胴ベルト型安全帯は、数年後、昭和30年代に入ってから商品化しました。
当時は安全のために道具(安全保護具)を用いるという観念が希薄でした。その代わり、電信柱での作業や法面作業などで、安全を確保しながら作業をやり易くする作業帯兼用の特種安全帯の普及が一足早く進みました。
やがて、さまざまな業種で作業環境の大規模化が進み、安全確保が作業効率の向上に直結するようになって初めて、純粋な「命綱」としての安全帯が使われる ようになりました。建築業で積極的に胴ベルト型安全帯が使われ始めたのは高度成長期、それも超高層ビルの建築が行われるようになった昭和40年代のことで した。