タニザワ

「遮熱ヘルメット」開発物語

2010.11.11

夏場の炎天下にヘルメットを被って立っていると、そのヘルメットの表面は素手で触れなくなるほど熱くなり、頭や額からは滝のように汗が出ます。ましてや、そういった環境の中で作業される方のご苦労は、察するに余りあります。
直射日光による暑さ対策は、ヘルメットメーカーとしてどうしても進めたい課題のひとつとして、これまで積極的に取り組んでまいりました。

テンプコート

1998年(平成10年)7月、谷沢製作所では「テンプコート」という名のヘルメット用遮熱用商品を発売しました。 これはNASA(アメリカ国立航空宇宙局)が開発した同名の断熱塗料を利用した製品です。セラミックのビーズをラテックスベースに混合した塗料で、高い熱反射特性と低い熱伝導特性、マイナス42℃から287℃までという広範囲の適用温度を売り物にしていました。

しかしながら、光沢のないざらついた仕上がりで、見た目があまりよくないだけでなく、社名などの印刷加工が出来ないため、ヘルメットに塗って出荷することは断念せざるを得ませんでした。

テンプコート

 そこで、ヘルメットと同形の厚さ0.38ミリのポリスチレン製カバーにこの塗料を塗布したものを作り、それをヘルメットにかぶせて使っていただくことにして、まずは3型を発売しました。
 当社の営業マンは、「スペースシャトルに塗られている断熱材料」をセールストークにして製品紹介に努めましたが、残念ながらほとんど販売実績が上がりま せんでした。当時は現在ほど熱中症対策が叫ばれていなかったこともありますが、カタログに謳っていた6℃という遮熱効果もユーザーの期待を満たすものでは ありませんでした。
 それでも、2000年7月に行われた九州・沖縄サミットの警備用に、採用が検討されたこともありました(現在は販売を終了しています)。

遮熱塗装ヘルメットへの期待高まる

2007年5月に行われた「2007 NEW 環境展」で、広島のベンチャー企業が、セラミック系の遮熱塗料をヘルメットに塗布した商品を展示して、注目を集めていました。

この塗料は先のテンプコートと同様、微細なセラミック真球粒子を塗膜表面に配列することによって遮熱効果を得るようにしたものです。展示会場で行っていたハロゲンランプを用いての実験では、ヘルメット内部の温度が10℃以上下がることが示され、見学者へのインパクトはとても大きかったようです。

同社製品の優れたところは、遮熱効果もさることながら、塗装後の帽体表明が滑らかで美しく、産業用ヘルメットに必須な印刷加工を支障なく行うことができる点でした。

その後、当社にも問い合わせが相次ぎ、遮熱ヘルメットに対するニーズが急速に高まっていることを実感させられました。

シラスバルーン

そのころ当社では、ある大手電気設備工事会社との間で、遮熱塗料のヘルメットへの塗布に関する共同開発を進めておりました。

当社に持ち込まれていた塗料は、鹿児島県川内市にあるアース化研(株)という会社が開発した特殊塗料で、鹿児島県産のシラスバルーンを利用しているのが特徴でした。

シラスは九州南部に堆積する白色の火山噴出物ですが、その粒子を瞬間的に高熱で発泡させたものがシラスバルーンです。

塗膜表面にあるうろこ状のシラスフレーク(シラスバルーンが壊れたもの)が太陽光線の大半を表面反射するとともに、内部に侵入した熱エネルギーをシラスバルーンが乱反射させ、拡散させます。

屋根などに施工して得られた断熱効果のデータはすばらしく、しかもシラスという天然素材を用いていることも、製品化への意欲を強くそそられました。

また、水系塗料であるため、有機溶剤によって性能劣化を起こすポリカーボネート製ヘルメットにも塗装可能だということも、この塗料を用いたいと考えた理由のひとつです。  実際に、ヘルメットに刷毛を使って塗った試作品は、期待以上の好結果を得ることができました。

遮熱塗装なしのヘルメット

遮熱塗装なしのヘルメット

シラスバルーン塗料を用いた遮熱ヘルメット

シラスバルーン塗料を用いた遮熱ヘルメット

2008年度版遮熱塗装ヘルメットの開発

しかしながら、量産用にスプレーガンでヘルメットに塗るのは容易なことではありませんでした。塗面にいわゆるダマ(塗装溜)やダレ(垂れ)が生じ、表面の光沢も出ませんでした。製品化にはほど遠い状況が続き、塗料メーカーに粒子の調整をしてもらうのに、かなり長い時間がかかりました。

もうひとつ解決に時間がかかったのが、塗料の粘度調整です。ヘルメットの表面に塗料を薄く均一に塗り重ねてゆくのですが、粘度によって作業効率が大きく変わります。当初は1時間に数個しか塗ることができず、工場では頭を抱えてしまいました。

それでも肝心の遮熱性能においては、楽しみな結果を得ていました。前年の展示会で広島のベンチャー企業が行ったのと同じ方法による計測(300Wのハロゲンランプを30cmの距離から照射して内部温度を計測する)では、16℃を超える遮熱効果が出ておりました。

2008年7月、このシラスを使った遮熱ヘルメットはようやく量産の目処がたち、発売に漕ぎつけました。  電気設備工事会社や空港のハンドリング会社などから炎天下での作業用に採用いただき、その効果に大変喜ばれました。

2009年度への挑戦

2008年度の製品は一定の評価はいただけたものの、表面がべたつく感じがする、汚れが付きやすい、多色対応ができない、などの問題が指摘され、次年度への課題となりました。

まず、シラスを使った水系の遮熱塗料を継続するかどうかの検討を行いました。それは、追随して発売した他のヘルメットメーカーの多くが、ヘルメット表面の熱反射効果をねらった酸化チタン系塗料を用いていたためです。

この塗料は反射効率に優れているものの、シラスバルーンや人工のセラミックビーズのような熱エネルギーの内部拡散効果がありません。その代わり、塗膜の厚さが要求されないために、塗装工程が簡単で生産効率が上がり、コスト面で大きなメリットがあります。

こういった製品と価格競争するには、2008年度版製品は製造コストが掛かり過ぎておりました。  しかしながら、社内での検討の結果、谷沢製作所で販売する製品は遮熱効果をしっかりと体感できるものでなくてはならないと判断し、再度、シラスを使った塗料に挑戦することになりました。

試行錯誤の末にたどり着いたのは、2008年度製品より遮熱塗料の塗膜をやや薄くし、その代わりに一般の水系塗料をオーバーコートする方法です。これにより、前年よりも生産性が上がった上、外観が向上し、表面硬度も増しました。また、カラー対応も可能となりました。

前年と同様の計測では、ポリカーボネートとFRPのヘルメット(ST#140、ST#108)でそれぞれ、最大15℃を超える遮熱効果が確認されています。

当社では来年度以降も、より効果の高い遮熱ヘルメットの開発に力を注いで参りますのでご期待ください。