タニザワ

耐電性能を持つ「夢のFRP製ヘルメット」開発物語

2010.10.27
 現在、わが国で製造・販売されている産業用ヘルメットの帽体のほとんどは、FRP(Fiber Reinforced Plastics =繊維強化プラスチック)、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリル ブタジエン スチレン共重合体)、PE(ポリエチレン)といった合成樹脂で作られています。
 各樹脂の特性により、それぞれの製品には長所と短所があるため、使用環境に応じて、使い分ける必要があります。
耐候性・耐久性 耐熱性 耐薬品性 耐電性
FRP ×
PC ×
ABS
PE ×

FRP製のヘルメット

FRP製ヘルメットは一般に、ガラス繊維を予め帽体の形に予備成形(プリフォーム)したものに、着色した不飽和ポリエステル樹脂を注ぎ、これを金型で加熱、加圧して硬化させます(プリフォーム・マッチド・メタル・ダイ(Preform Matched Metal Die)法)。

FRPは衝撃吸収性に優れているだけでなく、耐候性、耐熱性、耐薬品性、耐有機溶剤性などに優れています。また、ABSやPCなどの熱可塑性樹脂を使ったヘルメットに比べて、特に耐久性に優れており、社団法人日本ヘルメット工業会による産業用ヘルメットの交換基準でも、使用後5年とされています(熱可塑性樹脂の場合は3年)。これは、強化材としてガラス繊維が用いられているため、熱可塑性樹脂の製品に比べて、経年劣化の進行が遅いためです。

FRP製帽体の内装取付け用の孔と取付け鋲

 一方、最大の欠点は、耐電性能が劣ることです。熱可塑性樹脂の帽体のように、帽体内側に内装取付け用のブラケット部を成形することができませんので、代 わりに内装取付鋲を差し込むための孔を開ける必要があり、そのために「絶縁用保護具等の規格」が定める試験には合格できませんでした。
 従って、絶縁性能を満たしたFRP製ヘルメットは、いわば「夢のヘルメット」とされてきました。

ブラケットの接着による試作

絶縁性能を満たすためには、帽体表面に孔を開けるわけにはゆきません。最初に取り組んだのは、ブラケット部品を接着剤で帽体の内側に貼り付ける方法です。近年は強力な接着剤が販売されていますので、「保護帽の規格」に定められた衝撃荷重に耐えられる試作品を作るのは、比較的容易でした。

しかしながら、様々な環境で長期間使用されるヘルメットにおいて、接着面が性能を保ち続けるかという不安が解消されず、断念せざるを得ませんでした。

新しい成形方法への挑戦

次に取り組んだのは、成形方法の研究です。
FRPの成形は、マッチド・メタル・ダイ法以外にも、ハンドレイアップ法やスプレーアップ法、BMC(Bulk Molding Compound)法など、様々な方法があり、製品の大きさや形状、要求される強度などに適合したやり方がとられています。この中で注目したのは、SMC(Sheet Molding Compound)法でした。
ガラス繊維と不飽和ポリエステル樹脂、充填材等を混合して、柔軟性のあるシートを作り、それを金型で加熱、加圧して硬化させる方法です。

この方法は複雑な形状を表現することができ、高品質な外観を得られることから、日本では主にバスタブを始めとした浴室の構成部品、海外ではフェンダーやバックドアなど、自動車の外板部品を製造する際に用いられてきました。

問題となったのは、従来、この方法によって作られてきた製品が、ヘルメットに比べてかなり大きかったことです。小さな内装取付け用のブラケットの成形は、想像以上に難航しました。そのため、金型メーカーや樹脂メーカーと長期間に亘って試行錯誤を繰り返し、漸く解決に至りました。

また、従来は平面で構成された製品を成形することが多かったのに対して、ヘルメットのような球面に均一な製品強度を持たすことにも、工夫を要しました。

もう一つの問題は、バスタブも自動車の外板も、塗装による仕上げを前提にしていたことでした。
もともとFRP製のヘルメットは熱可塑性樹脂に比べて帽体表面の平滑性が劣るために、光沢が少なく、製品価値を不当に下げていました。このため、FRP製ヘルメットの常識を一新するような外観を得ることも重要な開発課題でしたが、塗装しないで満足な結果を得るまでには、長い時間がかかりました。

低電圧用の検定試験に合格

産業用ヘルメットの区分として、労働安全衛生法に基づく「保護帽の規格」により、飛来・落下物用と墜落時保護兼用が定められています。
これとは別に、「絶縁用保護具等の規格」に基づいて電気用のヘルメットが定められています(下表)。

従来の電気用ヘルメットは全て、高電圧用(使用電圧7,000ボルト以下)の規格を満たしておりましたが、SMC成形法によるFRPヘルメットでは、低電圧用(使用電圧600ボルト以下)の規格を満たすことを目指しました。これは、電気工事等の専門作業を除いて、通常の作業で求められる耐電性能は、低電圧に対するもので十分と考えたからです。

完成した製品は、余裕をもって8,000ボルト程度の試験電圧に1分間耐えることができました。低電圧の絶縁用保護具として検定にも合格し、夢のFRPヘルメットが実現しました。

絶縁用保護具等の規格(抜粋)

(絶縁用保護具等の耐電圧性能等)

第3条
絶縁用保護具は、常温において試験交流による耐電圧試験を行ったときに、次の表の上欄に掲げる種別に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる電圧に対して一分間耐える性能を有するものでなければならない。

絶縁用保護具の種別 電圧
(単位:ボルト)
交流の電圧が300ボルトを超え600ボルト以下である電路について用いるもの 3,000
交流の電圧が600ボルトを超え3,500ボルト以下である電路又は直流の電圧が750ボルトを超え3,500ボルト以下である電路について用いるもの 12,000
電圧が3,500ボルトを超え7,000ボルト以下である電路について用いるもの 20,000

定期自主検査に便利なC型内装を採用

定期自主検査に便利なC型内装を採用 新製品 ST#121-CZ

 本年7月20日、構想開始後、5年以上の歳月がかかりましたが、ST#121-CZを発売しました。人気のヘルメットST#161と同じスタイルの製品です。
 このヘルメットに採用した新型C型内装は、4ヵ所のレバーをつまむだけで簡単に内装品やあご紐を取り外すことができる画期的な製品です。
 これは6ヶ月ごとに定められた絶縁用保護具の定期自主検査の準備には勿論のこと、内装品やあご紐の交換にもたいへん便利です。自信を持ってお勧めしますので、是非、手にとってお確かめください。