谷沢製作所はこれまで、働く現場のニーズに応えて、数々の安全用品を開発して参りました。現在は作業現場になくてはならぬものとして、ごくごく一般的に使われている道具や用品にも、初めて世に出た時には、小さな物語があるものが少なくありません。
以下はそういったもののひとつ、超高層ビルが続々と誕生した頃に、時代の要請により生まれた高所作業用親綱の開発物語です。
昭和42年(1967年)、霞ヶ関ビルに次ぐ日本で2番目の超高層ビルとして、東京浜松町に世界貿易センタービルの建設工事がスタートしました。
その頃、建築現場では既に保護帽は全員が被るようになっておりましたが、安全帯は墜落事故防止に有効な安全用品として、普及が進んでいた時期にあたります。
当時の安全帯には、現在のように単管パイプに掛けられるような開口部50ミリの大径フックではなく、開口部10ミリほどの小径フックが用いられていました。引掛ける対象をくるりと巻いて自分のロープにフックを掛ける「回し掛け」という使い方をしていました。
また安全帯を掛ける先は、主に鉄骨を仮組みする際に張っていた、捩れ止めのワイヤーでした。それでは最上部で鉄骨を仮組みし、ワイヤーを張る際にはどうするか−それこそがベテラン鳶職に任せられた、神業的な職人仕事でありました。
世界貿易センタービルは完成時には152メートルと、当時、東洋一の高さを計画しておりました。建て方が上がるにつれ、さしもの鳶さんも東京湾から吹きつける風で危険が増して来ました。 その時、この現場に安全用品を納入していた当社の若手営業マンKが、施工会社の安全責任者から、鉄骨仮組みの際に安全帯を掛けられるロープの製作を依頼されました。