タニザワ

「かるメット」開発物語

2007.09.10

現在使われている産業用のヘルメットは、その素材と製法により、大きく2通りに分けられます。

一つはFRP(Fiber Reinforced Plastics =繊維強化プラスチック)製の製品で、一般に母材に熱硬化性樹脂であるポリエステル樹脂、強化材にガラス繊維、充填材に炭酸カルシウムを用いています。FRP 製ヘルメットは、衝撃吸収性能に優れているだけでなく、耐候性、耐熱性、耐薬品性などに優れた特長を備えています。
もう一つは熱可塑性樹脂(Thermo Plastics)を射出成形した製品です。主にポリカーボネート樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂、ポリエチレン樹脂などが用いられ、各樹脂の特性により、夫々異なる特長を持っています。
今回お話しするのは、谷沢製作所が取り組んだ軽量FRP 製ヘルメットの開発物語です。

<帽体の材質別比較表>

耐候性 耐熱性 耐薬品性 耐電性
FRP ×
PC ×
ABS ×
PE

ヘルメット軽量化への取り組み

ヘルメットに対するユーザーの皆さんの要望は、おおむね(1)軽く(2)蒸れないように(3)被りやすく、そして(4)格好よくの4 点に尽きるのではないでしょうか。当社にとって、いずれも終点のない永遠の開発テーマですが、他のヘルメットメーカーにとっても同様で、各社工夫を凝らした商品を発表しています。
ヘルメットの軽量化は、製品質量のおよそ2/3 から3/4 を占める帽体(シェル)をいかに軽くするかにかかっています。樹脂ごとの比重を変えることはできませんから、帽体を軽く作るためには、樹脂の量を減らすしかありません。
ところが肉厚を削って樹脂量を減らすと、衝撃吸収能力や耐貫通性能を著しく殺いでしまいます。そこで研究の対象となったのがFRP製の帽体です。冒頭で紹介したように、FRP は母材、強化材、充填材の複合材料ですので、その組み合わせを変えながら軽量化に挑戦することができるからです。

昭和60 年(1985 年)、ある樹脂メーカーからポリエステル樹脂に代るFRP母材の紹介がありました。その頃、既に当社のFRP 製ヘルメットは、他社より軽いことを売り物にしていましたが、これをきっかけに、さらに50 グラム軽い製品の完成を目指して開発がスタートしました。

まず、使わなくなった古い金型を用い、肉厚を薄くした帽体を試作してみました。これにより、成形後の帽体質量は50 グラム減を軽々クリアしましたが、当然のことながらこれでは衝撃を受け止めることも吸収することもできず、簡単に割れてしまいます。
機械的強度を上げるために、先に紹介を受けた樹脂を始め、母材として最適な樹脂を求めて試作を重ねましたが、なかなか適当なものが見つかりません。最後にたどり着いたのが、あるグレードのビニルエステル樹脂で、これでようやく強度を満たした帽体を作ることに成功しました。

しかし、貫通試験を行うと試験錐を受け止めることができず、突き抜けてしまいます。
そこで取り組んだのは、ガラス繊維のカット寸法を長くする方法です。これは耐貫通性能アップに大きな効果を生み、ヘルメットの性能要件を完全に満たすことができました。

「耐貫通性能試験」 3 kgの鉄円錐を1 mの高さから落下させる

 ところが今度は、ガラス繊維が帽体表面に露出してしまい、商品になりません。以後、製品化まで「露出」との戦いとなりました。

「かるメット」発売

「かるメット」発売 「かるメット」ST#108型

 昭和61 年10 月15 日から3 日間にわたって開催された横浜緑十字展(中央労働災害防止協会主催)で、当社は大きく「ザ・新素材」と銘打ち、開発中の軽量ヘルメットを展示したところ、とても大きな反響を得て、その後の製品化に一層の力が入りました。
 翌昭和62 年9 月、従来のST#118 型と同形の軽量MP 型ヘルメット、ST#108型を発売しました。飛来落下物用で330 ± 10 グラム(従来は370g 平均)、墜落時兼用355±15 グラム(同395g 平均)と、いずれも40グラムの軽量化となりました。
 目標の50g 減は実現できませんでしたが、当時の国内最軽量ヘルメットとなり、緑十字展での公募により決定した愛称「かるメット」とも相まって、大ヒット商品となり、 現在では人気のST#101 型、ST#109 型など22 種類の「かるメット」をラインナップしています。

300 グラムを切る「超かるメット」の開発

その後、数年を待たずに他社も追従してきたため、新たな目標を「質量300 グラムを切る超軽量ヘルメットの開発」に置きました。
「かるメット」の開発を進める中で、高機能樹脂を母材に使うとともに、強化材にも高機能有機繊維を用いると、肉厚をかなり薄くしても機械的強度が高く衝撃吸収性能も十分な帽体ができること、また、より比重の軽い有機繊維を選択することにより、さらに軽量な帽体を作れることが分かっていました。
当時、既に炭素繊維を始めとした様々な高機能有機繊維が新素材として脚光を浴びておりましたが、いずれもとても高価で、「かるメット」には採用を断念せざるを得ませんでした。そこで、ガラス繊維の一部を高機能繊維に置き換えることにより、求めやすい価格で超軽量帽体を作る方針を定め、開発を進めることになりました。
様々な試行を経て有力候補となったのが、ポリエチレン系の高強力繊維でした。この繊維の比重はガラス繊維の約40 %です。つまり、ガラス繊維100 グラム使用した場合は、形や厚さを変えずに約40 グラムで同じ帽体を作ることができることになります。
ところが、この繊維の割合を増やして行くと、ポリエチレン製帽体に顕著な、高温での性能低下が起きてしまいました。このため、ガラス繊維とポリエチレン系繊維をどのように組み合わせたら最適であるかについて、研究を重ね、次第に製品化へと近づいて行きました。

「超かるメット」ST#159型

 「かるメット」発売から7 年、平成6 年(1994年)5 月に「超かるメット」の愛称で、ST#159 型ヘルメットを発売しました。
製品質量は295±20 グラム。墜落時兼用型で300 グラムを切った夢のヘルメットとして、ヘルメットユーザーの皆さんに大いに喜ばれました。
 「かるメット」発売時のセールストークに、「みかん1 個分の軽量化」というのがありました。1 日中被るヘルメット、たったみかん1 個分の軽量化でも、疲労軽減に大変大きな効果があります。
 谷沢製作所では、現在もヘルメットの軽量化を大事なテーマとして、たゆまぬ研究を続けています。

※現在「かるメット」「超かるメット」ともに、高機能ヘッドバンド「EPA」の採用により、発売時より約15 グラム重くなっています。